たいようの真剣と書いてマジすかと読む日記第6章~テッペン取りません~
【小説】センチメンタル・グラビティ 第13話 一般 2010/03/10 00:12
最終話 保坂美由紀 ~勝利者~
ポストを間違えるってことは、家が近いということだ。近頃の都会は、ご近所の付き合いというものがないとよく聞く。俺も他聞に漏れず、はっきり言って隣近所の人とは話したこともないし、裏に住んでいる人が何という名字なのかも知らない。
だが、旅行に行く前と今とでは決定的な違いがある。彼の名前を知っているということだ。
俺は自分の家の周りを一軒一軒、表札を見ながら探して回った。
ほとんど苦労もなく、「大倉」という家があった。こんなに近いのに、ご近所付き合いがないも甚だしい。
ふと見ると、大倉家のポストを開けている女の子がいることに気づいた。ここの娘だろうか?彼女は郵便物がないのを確かめると、ポストの蓋を閉めた。そしてこちらに気づき、びっくりした表情をした。
「あ、すみません、こちらに大倉・・・・」
(そうか、名前まで聞いてないぞ)
「大倉君いますか」
俺は思いっきりダチな感じで聞いてみた。
「彼のお友達ですか」
そう言って彼女は警戒を緩めたようだった。眼鏡の奥の瞳が少し笑った。
「おい美由紀、お客さんか?」
その時、玄関から誰か出てきた。こいつが、もしや・・・・!
「あなたのお友達だって」
「友達?」
俺と同い年くらいの青年だった。想像していたよりは格好よくはなかった。どちらかというと、人なつっこい感じがした。
「・・・・どちらさん?」
その彼の疑問は至極当然だった。お友達と言われても、初対面だったのだから。
「えっと、何から話せばいいのか・・・・ええとですね、俺の家のポストに手紙が・・・・」
俺がそう言いかけたとき、美由紀と呼ばれた女の子が俺の腕を引っ張った。
「あ、圭ちゃん!この人、私のお友達なの!ちょっと込み合った話があるから、ちょっと出てくるね!圭ちゃんは家で待ってて!」
「え、あ、そう?」
圭ちゃんは訳の分からないまま、俺達2人を見送っていた。
訳が分からないと言えば、俺もさっぱり分からない。否応なしに喫茶店に連れ込まれた俺はとりあえず彼女と同じコーヒーを注文した。
「手紙のことだけど」
注文を済ませると、いきなり彼女は俺に詰め寄った。
「今、持ってるの?」
「いや・・・・差出人に渡してきた」
「渡した?まさか、全国まわって!?」
「旅行が趣味で」
「・・・・そう、まぁいいわ。あ、私、保坂美由紀っていいます」
俺も自己紹介をした時、コーヒーが運ばれてきた。
「ある時、彼の家のポストに手紙が11通も入っていたわ。切手も貼っていない、奇妙な手紙」
コーヒーをすすりながら、保坂さんは淡々と話し始めた。
「私、手紙を彼に見せちゃいけないと思った。彼から聞いたことがあるの。彼が転校を繰り返す中で出会った女の子達のことを・・・・もし彼がこの手紙を見て、彼女たちを思い出したら・・・・私から離れていってしまうかも知れない。そう思ったら、その手紙をポストから出していた」
「・・・・」
「捨てようと思った。けど、私と同じ思いの女の子達がわざわざ届けに来た手紙を捨てることは・・・・出来なかった。その時、あなたの家のポストが目に入ったのよ」
「・・・・おいおい」
俺は「おいおい」しか言えなかった。俺んちのポストに入っていたのは、たまたま通りがかって目に入った、っていうだけなのか!?
「それから私は毎日、彼の家のポストを覗いて手紙が無いかチェックしてたわ。この前も安達って子から手紙が来ていたけど、今度は捨てちゃった」
「・・・・」
俺は飲んでいるコーヒーの味すら分からなくなっていた。
「私、彼女たちのことを独自に調べたの。そしたら、みんなこっちの大学を受けるつもりらしいわ。私はいち早くこっちの大学に推薦が決まって、彼・・・・圭ちゃんともうまくいってるし、幸せなの。でも・・・・」
保坂さんの目が俺を睨んだ。
「その幸せを邪魔する女の子達・・・・許せない。邪魔してやるんだから・・・・みんなの住所は分かってる。早い内に手を打たないと・・・・」
俺は戦慄した。いけない、この子の目は本気だ。本気で他の女の子達が危ない。
「あなたも、このことを彼に喋ったら・・・・分かるでしょ?」
俺は保坂美由紀にさんざん脅された後、家に帰った。そして、慌てて控えてあった他の11人・・・・いや、10人か・・・・の女の子達の住所を引っぱり出し、手紙を書くことにした。
保坂美由紀という子に気をつけろ、差出人不明の郵便物に気を付けろ、見知らぬ女の子が訪ねてきたら注意しろ・・・・。
そういった文章を、10枚も書くのは時間がかかるのでワープロで刷って封筒に入れ、買ってきたばかりの切手を貼り、鞄に入れるのもまどろっこしく、封筒を手に家を出た。犠牲者が出る前に手元に届いていればいいが・・・・。
俺は、家の玄関を出たところで立ち止まった。
誰かが門の前で立っていたのだ。
「その手紙・・・・どうするつもり?」
保坂さんの眼鏡の奥で、鋭い眼差しが俺を捕らえていた。
「完結編」全13話に続きます。
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