太陽*3(サンサンサン)の真剣と書いてほんきと読む日記第5章~Unlock My Heart~

【小説】センチメンタル・グラビティ完結編~序章 一般 2010/03/11 00:59

序章 「立ちこめる暗雲」

 

 あれから1週間が過ぎた。
 俺はカーテンを少し開け、その隙間から窓の下をそっと覗いた。
 あいつは見あたらない。
 俺はもう少しカーテンを開け、目を凝らして辺りを見回した。あいつの姿はどこにもな
かった。もう諦めたのか?それとも食事か、用を足しにいったか・・・・。
 とにかく、チャンスは今だ。俺は手早く必要なものを鞄に詰め、靴を履いて外に出た。
 よし!と、思ったその時だった。
「どこへ行くんだ?」
 あいつの声が背中から聞こえた。
 そう、あれからずっと俺のことを見張っているあいつだ。やけにガタイのでかい奴。
「あ、ちょっと自販機にジュースを・・・・」
「そうか。ならばついて行こう」
 これだ。俺は妙なツーショットで買いたくもないジュースを買って、家に戻った。あい
つはまたどこかから俺を監視しているのだろう。いつまで俺はこの状況下に置かれるのだ
ろうか。
 それはあの男の依頼主、保坂美由紀の胸の内1つだろう。

 

「それで?」
 喫茶店の一角。俺と保坂さんは向かい合って座っていた。他の誰かが見たらカップルに
見えるかも知れない。しかし話の内容は恋人のそれには似つかわしくないものだった。
「それで・・・・って?」
「あの人たちに連絡してどうするつもりだったの?貴方には全然関係ないことじゃない。
 私の邪魔をしないでくれるかな」
 保坂さんは眼鏡を直しつつ、俺を睨んだ。
「関係ないことないと思うんですけど・・・・一応巻き込まれたわけですから」
 俺、どうして敬語になってしまうんだろう?年上なのに。
「巻き込んだのは悪かったとは思うの。だから、もう関わらないで。でないと・・・・」
「でないと?」
「・・・・ううん、何でもないわ」
 そう言って保坂さんはコーヒーをすすった。
 でないと、何なんだろう?言わない所が余計に怖かった。

 

 あの時はそれで終わったのだが、俺は保坂美由紀を甘く見ていた。
 やはりライバルを蹴落とすべく行動に移るであろう保坂さんをこのまま黙って放ってお
くわけにはいかないと思い、全国を回って出会ってきた女の子たちに忠告をしておこうと
手紙を書いた。最初のは保坂さんに見つかって取られてしまったのでもう1度書いたのだ
が、これもまた見つかった。それは保坂さんにではなく、彼女が雇ったごつい男に、であ
った。
 後で分かったことだが、その時保坂さんは東京にいなかった。行き先が分かったのは、
更に後日のことであった。

 

 電話で連絡を取れればいいのだが、電話番号が分からないのでどうしようもなかった。
数日後、電話番号案内というものを思いついたが、あれは電話帳登に登録されている名前
からでないと調べられない。彼女たちの名前は分かっていても、どうすることもできない。
 更に俺が驚くべき事実に気が付いたのは、友人の家に電話をしようとした時だった。電
話が繋がらないのだ。故障か?と思っていたが、ふと嫌な気がして、保坂さんに訪ねてみ
た。
「あぁ、あなたの家の電話線、切ったわよ」
 彼女はそうサラリと言ってのけた。
「それって、犯罪じゃ・・・・」
「知ってるわよ、そんなの。あなた、携帯電話持ってなかったよね」
「ないけど・・・・」
「良かった。持ってたら、どうやって使用不可能にしようかと思ってたの」
 そう言って彼女は静かにコーヒーをすすった。

 しかし、この状況がずっと続くはずがないと俺は考えていた。今は夏休みで、保坂さん
も東京の親戚の家に泊めて貰っているが、二学期が始まれば金沢に帰るしかないだろう。
いくら大学に推薦が決まっているとはいえ、学校を休むのはまずいはずだ。
 それは彼女も分かっているはず。俺の不安はそこにあった。
 そうなれば今のようにポストをチェックすることもできないし、学生の身で俺を監視す
るバイトを雇うのは苦しいに違いない。だとすれば、彼女が勝負に出るのは夏休み中、つ
まり八月末までということになる。

 

 そんな状況の中、俺が保坂美由紀に出逢ってから今日で一週間が過ぎようとしていた。
 今日は俺の家に友達が遊びに来た。外に出るとアイツが後をつけてくるので、家の中で
ダラダラと過ごした・・・・ように見せた。
 そう、この日が保坂さんとそのライバルである女の子たちとの戦いの幕開けの日だった。

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