たいようの真剣と書いてマジすかと読む日記第6章~テッペン取りません~

【小説】センチメンタル・グラビティ完結編第2話 一般 2010/03/12 22:09

第2話 「妙子・秘密のレシピ」

 

「そうと決まれば明日出発よ」
 俺は保坂さんといつもの喫茶店に来ていた。 いつもの、というとデート
しているようだが、甘いムードなど全然ない。
「今回のターゲットは安達妙子、綾崎若菜、遠藤晶」
 保坂さんはそう言って女の子たちの顔写真を並べていく。
「この子たちは弱みを握ることが出来なかった。 このあたりを重点的に行くわよ。 聞いてるの?」
「は、はい。 あの、他の女の子達は・・・・」
「何とでもなるわ。 永倉や杉原なんて問題外だし」
 こうして、俺と保坂美由紀との旅行プランは順調に決まっていった。
 何とかして保坂さんが、いや俺達がそれぞれの女の子の所に行く日を報せないと。俺が妨害してもいいけど、あからさまだと逆に俺が危ない。今の保坂さんに恨みは買いたくなかった。それぞれの女の子にある程度自己防衛して貰わなければ。

 そして出発の日。保坂さんは少々大きめのバッグを持って駅前に現れた。大倉君に「ちょっと旅行に行く」と挨拶して出てきたそうだ。
 女の子というのは大変だな。俺なんか、こんなバッグしか持ってない。
 ・・・・あれ、女の子・・・・。
 そっか、保坂さんは女の子だった。てことは、俺、女の子と2人きりで旅行に行くのか!? なんだか、今まで全然そんなこと思わなかったぞ。
「ねぇ、バッグ持ってよ」
 ・・・・やはり女の子と、ではなく女王様と、だった。
 重たいバッグをかかえつつ、俺はどうにかして今日俺達が行くことを安達さんに伝えたかった。心の準備があるかないかだけでも大きな違いだろう。
 保坂さん、トイレにでも行ってくれないだろうか。その隙に公衆電話で連絡できるのに。
「ちょっと、財布出して」
 そういきなり保坂さんに言われ、俺はカツアゲされるのかと思った。

「な、どうして?」
「いいから。 取ったりしないってば」
 俺は半信半疑で財布を差し出した。
「他には? 定期入れとか、小銭入れとか」
 俺がないと言うと、彼女は財布を物色し始めた。
「ん。 じゃ、預かっとく」
 それって、やっぱカツアゲじゃないか!
「だ、駄目だよ。 電車賃が払えないじゃないかっ」
「だから取らないって。 私が戻ってくるまで預かっておくの」
「え、戻って・・・・?」
「ト、トイレよ。いい? ここで待っててよ」
 トイレという時、ちょっと恥ずかしげな顔をした。やっぱ女の子なんだ。
 ・・・・そうか、この間に俺が電話をかけられないように財布を! まてよ、誰かに10円貰えば・・・・って、青森までだぞ、半端な額じゃ電話できない! おそるべし、保坂美由紀。
 だが、俺が安達さんの電話番号を知っているとは気付いていまい。あの監視下でどうやって調べたかって? それはだな・・・・って、こんなことしてる場合じゃない! どうやって報せる? どうやって電話・・・・ああっ! 電話番号、あの財布の中だ! なんてこった。
 だがしかし、こんな時のためにズボンのポケットに入っている千円札! これを使ってなんとか!
 俺はあたりを見回した。そこで俺の目に飛び込んできた看板は・・・・。
「インターネット喫茶 イメルダ」
 慌てて俺はその店に飛び込んだ。

 保坂さんがトイレから戻ってくるのと、俺が元の位置に戻ってくるのと同時だった。間に合った。時間がかかりすぎたと思っていたが、女の子のトイレは思ったより長いようだ。
 俺は財布を返して貰おうとしたが、拒否された。「やっぱり私が持っておくわ。使いたくなったら言って」ということだった。
 勿論、俺の旅費は俺が払うことになっている。 この前まで全国渡り歩いて来たというのに、また金が飛んでいく。これではまた当分バイト三昧だ。
「他の人はいいの? 沢渡さんとか、永倉さんとか」
「沢渡は父親とのラブラブツーショット写真を入手したわ。彼女の父親、大学の教授でしょ。近親相姦なんてウワサ、致命傷になるわ。永倉は問題外。妖精が見えるなんて、普通じゃないもの」
 そんなこんなで、俺達は青森の安達酒店に着いた。
 さて、保坂さんはどうやって安達さんの弱みを握るのだろうか。やはり酔わせて暴れさせ、そこをカメラに・・・・というところか。
「ここね。 酒乱の安達妙子のいる店は」
「あ、いらっしゃあい!」
「!」
 いきなり声をかけられ、俺と保坂さんは驚いた。どうやって陥れようかと考えていた対象が突然現れたので当然だ。
「あら、あなたこの間の!」
「どうも・・・・」
「どうしたの? 今日は。 あの子のお話? ね、上がって上がって!」
 そう、大倉君の幼なじみである彼女は、彼のことを時々「あの子」と呼ぶ。昔のクセなのだろう。
「そちらは?」
 安達さんは保坂さんの方を見た。
「あ、えっと」と俺が返答に窮していると、
「お友達です」
 ごく自然に保坂さんは言った。

 居間に通された俺と保坂さんは、所在なく座布団に腰掛けていた。安達さんは「ちょっと待ってて」と言って、台所に消えてしまったのだ。
「幼なじみ、ってところがちょっとやっかいね」
 保坂さんは顎に手をあてて考えていた。
「やっぱり手堅く酔わせて・・・・客商売だから、お店の信用を・・・・」
 こんな時の保坂さんは、ちょっと怖い。
「おまたせ。ちょっと味見して欲しいのよ」
 そう言って安達さんが運んできたのは、味噌汁だった。 客にいきなり味噌汁の味見なんて頼むか!?
「ささ、どうぞどうぞ。 冷めない内に」
 促されて、保坂さんも「どうして味噌汁?」という顔で箸を手に取った。保坂さんも、ここは大人しくして油断させようというところだろう。
 ズズズ・・・・2人の味噌汁をすする音だけが居間に響いた。その静寂を破ったのは、安達さんだった。

「甘いわね、保坂さん。敵の出したものを警戒もせずに口にするなんて」
 俺達の箸の動きが同時に止まった。
「どういうこと」
 保坂さんがこわばった表情で安達さんに質問した。俺も緊張する。
「このお味噌汁に何か入ってるとでも・・・・?」
「入ってるわよ」
 安達さんはシラっと言ってのけた。その口調に、俺はどっと汗が噴き出た。何が一体この味噌汁に入っていたんだ!? だいたい、俺にまで喰わせてどういうつもりだ安達さんは!
「・・・・あなた、私を知っているのね」
「保坂美由紀さん、でしょ?」
「あなたなの!?」
 いきなり保坂さんに怒鳴られて、俺は心臓に大ダメージを受けた。
「な、なんのこと? 第一、連絡が取れない状況にしたのは保坂さんじゃないか。あの状態で、どうやって俺が安達さんに連絡が取れるっていうのさ」
「そ、そうよね」
 保坂さんも動揺を隠せない。一体、この味噌汁には何が・・・・。

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